米国大統領選挙での大接戦はいろんな意味での国の二分化を示すものとして暗示的だが、そのひとつに富の二分化がある。今回の選挙の両党の得票者を所得階層別に分類したデータによると、年収5万ドルを境として収入が高いほど共和党への投票者が増え、逆に収入が低くなるほど民主党への投票者が増えるというきれいな対照性が観察できる。米国では上位1%の富裕層が株式全体の48%を保有しているが、この格差は更に拡大する傾向が見られる。
しかしこの富の格差が近年の米国経済の急拡大の原動力ともなっていたことも事実である。資本が集中することで、投資活動がより専門的でリスク許容度の高いものとなり、それが90年代の勇猛果敢な新規分野への投資と米国経済の大躍進に結びついた。
それに対し日本は、伝統的に平等を重んじる社会である。富の格差はきわめて小さい。上位一割の階層が所有する金融資産は全体の38%に過ぎず、上位1%の階層が株式の48%を保有するアメリカに比べて遙かに平等だ。更にこの格差は縮小する傾向にある。今年の国民生活白書によれば90年代を通じて日本人の資産格差は着実に縮小してきたとのことだ。
背景にはバブルの崩壊がある。90年代で日本国民が失った土地と株式の資産総額は1200兆円という。種々前提をおいて推計すると、日本の上位中産階級(上位一割の世帯、約400万世帯)は一世帯あたり4000万円の損失を被った計算になる。これは格差の縮小につながったが、同時に国民の投資活動を萎縮させ保守化させる結果にもなった。一方で、長期にわたる不況にも拘わらず勤労者所得は実質では目減りしていない。一人あたり実質GDPは90年比で約12%上昇している。失業率も5%以下だ。だから国民の危機感はまだまだ希薄で、構造改革は進まず、経済は停滞したままだ。
日本においては、ほとんどの国民は勤労者であると同時に資産家でもある。90年代を通じて日本国民の「資産家の側面」は大いに痛めつけられ、逆に「勤労者の側面」は過剰に保護されてきた。高齢化、少子化を迎え経済の生産性上昇が喫緊の課題となっている。そのために資本の有効利用と積極的な投資活動が決定的に重要だ。国民の「資産家の側面」を活性化させる政策が21世紀の日本の経済再生の鍵を握る。
(橋本尚幸)